ドラッグストアの謎:なぜ市販薬の中身は似ているのか?|承認基準という"ルールブック"を読む【OTCマーケターが解説】
「中身、似てない?」「名前が違うだけでは?」と感じたことがある人は多いと思います。
これは偶然ではなく、OTC医薬品の「承認基準」というルールブックが深く関係しています。
企画する側にいた視点から、その仕組みを解説します。
OTC医薬品に"ルールブック"がある
市販薬を作るとき、メーカーは自由に成分や量を決められるわけではありません。
厚生労働省は医薬品カテゴリごとに「製造販売承認基準」を公表しており、これがいわば市販薬を作るためのルールブックです。
- 厚生労働省が定める、OTC医薬品の製造・販売に関するガイドライン
- カテゴリ(解熱鎮痛薬・胃腸薬・鼻炎薬など)ごとに存在する
- このルールブックの範囲内で申請すれば、個別審査なしに承認される
- 範囲外の成分・用量を使う場合は、別途個別審査が必要になる
つまり各メーカーは、「ルールブックの範囲内」で商品を設計しているということです。
このルールブックの存在が、「ドラッグストアに似た商品が並ぶ理由」の根本にあります。
承認基準に定められている5つのこと
解熱鎮痛薬を例にとると、承認基準には大きく5つのことが定められています。
| 項目 | 内容 | 意味 |
|---|---|---|
| ①使用できる有効成分 | アセトアミノフェン、イブプロフェン、アスピリン、エテンザミドなど(I欄〜IV欄で区分) | リストにない成分は原則使えない |
| ②成分ごとの配合量 | 各成分の1回最大分量・1日最大分量が規定されている(例:イブプロフェン 1回200mg・1日450mg) | 勝手に増量できない |
| ③効能又は効果 | 頭痛・歯痛・生理痛・発熱時の解熱など、記載できる効能が規定されている | 規定外の効能表現は不可 |
| ④用法及び用量 | 服用タイミング・1回量・1日回数の枠組みが定められている | 自由に服用方法を設計できない |
| ⑤年齢制限 | 成分によって15歳未満禁忌など年齢制限が定められている | 成分によって対象年齢が変わる |
実際の承認基準を見てみよう
下記は厚生労働省が公表している「解熱鎮痛薬製造販売承認基準」の別表1です。使用できる有効成分と、1回・1日の最大分量が明記されています。
この表から読み取れる重要なポイントが2つあります。
- アセトアミノフェン:1回300mg
- イブプロフェン:1回200mg
- アスピリン:1回750mg
- エテンザミド:1回500mg
- イソプロピルアンチピリン:1回150mg
- アリルイソプロピルアセチル尿素:1回60mg
- ブロモバレリル尿素:1回200mg
※I欄の主成分に組み合わせて配合できる補助成分。「頭痛に伴う緊張を和らげる」などの目的で配合される。
メーカーはI欄の主成分を選び、II欄の補助成分と組み合わせるという設計をしています。選べる成分・配合量の上限が決まっているため、各社の製品が近くなるのは当然の帰結です。
承認基準は「最低限のルール」であり、各社はこの枠の中でしか動けません。新製品の企画会議でも「承認基準上は問題ないか」の確認は必ず行います。逆に言えば、承認基準内であれば審査が比較的スムーズに進むため、各社が似た設計に向かいやすいという構造があります。
なぜ「似た商品」が増えるのか
頭痛薬で使える有効成分は限られています。その中で長年の使用実績があり、安全性・有効性が確立されているのは以下の成分が中心です。
- イブプロフェン
- アスピリン(アセチルサリチル酸)
- エテンザミド
- ロキソプロフェンナトリウム(スイッチOTC)
- アセトアミノフェン(作用機序が異なる)
- 無水カフェイン(鎮痛補助)
- アリルイソプロピルアセチル尿素(鎮静補助)
- 制酸剤成分(胃粘膜保護)
「同じルールブックの中で、実績ある成分を使う」——この結果として、各社の製品が成分・効能・用法で似てくるのは必然です。
これはメーカー各社が手を抜いているわけでも、真似をしているわけでもありません。「同じルールの中で最適解を追うと、近い設計になる」という構造的な話です。
具体例①:イブAとイブクイックの違い
同じエスエス製薬の製品でも、イブブランド内に複数の製品があります。これはルールブックの範囲内でどう差別化しているかの典型例です。
- イブプロフェンを中心としたシンプルな設計
- 補助成分との組み合わせで鎮痛効果をサポート
- 「スタンダードな頭痛薬」としてのポジション
- コストパフォーマンス重視の選択肢
- イブプロフェンに速溶化技術を組み合わせた設計
- 「早く効く」を訴求するための製剤工夫
- 同じ有効成分でも「速さ」で差別化
- 価格は高めでも速さを求める層に訴求
注目すべきは、どちらも「承認基準の範囲内」で設計されているという点です。有効成分の種類や1日上限量は同じルールに従いながら、製剤技術と補助設計で差別化しています。
同じブランド内で複数製品を展開するのは、「価格帯別の棚取り」という戦略でもあります。スタンダード製品でボリュームを確保しつつ、プレミアム製品で利益率を上げる。これはドラッグストアのPB(プライベートブランド)戦略とも深く関わっています。
具体例②:プレミアム系製品の「近さ」
さらに興味深いのが、異なるメーカーのプレミアム系製品を比較したときです。
バファリンプレミアムDX(ライオン)とイブクイック頭痛薬プレミアム(エスエス製薬)——メーカーも異なるこの2製品ですが、設計思想が非常に近いことが分かります。
- 複数の有効成分を組み合わせる(異なる作用機序で相乗効果を狙う)
- 鎮静補助成分を加える(アリルイソプロピルアセチル尿素など)
- 無水カフェインを配合(血管収縮・鎮痛補助として)
- 胃への配慮(制酸剤成分の追加など)
「真似している」ではなく、「同じルールブックの中で効果感と飲みやすさを最大化しようとすると、設計が近づく」——これが正確な表現です。
承認基準という共通のルールブックがある以上、「最高の頭痛薬」を追求したときに行き着く答えは、ある程度似てきます。これはF1マシンが各チーム異なるアプローチを取りながらも、形状が似てくるのと同じ理屈です。
各社はどこで差をつけているか
ルールブックの中でどう差別化するか——メーカーが実際に使っている手法を4つに整理します。
| 差別化の軸 | 具体的な手法 | 例 |
|---|---|---|
| 製剤設計 | 崩壊・溶出の速さ、剤形(錠剤・液体・ゼリー)の工夫 | 「速く効く」訴求 |
| 効能の絞り込み | 承認基準内の効能を意図的に絞り、ブランドイメージを作る | 「生理痛専用」「頭痛専用」 |
| 補助成分の組み合わせ | 同じ主成分でも補助成分の種類・量で体感を変える | 胃に優しい設計、眠くなりにくい設計 |
| ブランド戦略 | ネーミング・パッケージで「速い」「優しい」などのイメージを付与 | 「プレミアム」「クイック」「プラス」 |
「完全自由に作れる」わけではないからこそ、各社はルールブックの枠の中で製剤技術・ブランド・ターゲット戦略で勝負しています。「中身が似ている」のに「選ぶ理由が生まれる」のは、この差別化努力の結果です。
ルールブック外から来る薬:スイッチOTC
ここまでは「承認基準というルールブックの中で作られる薬」の話でした。しかし市販薬には、このルートとは少し違う流れで登場する薬があります。
それが「スイッチOTC」です。
もともと医師の処方が必要だった医療用医薬品の成分を、一定の審査を経て市販薬(OTC)として販売できるようにしたもの。通常の承認基準ルートとは別の審査プロセスを経て登場します。
処方箋が必要
実績蓄積
厚労省審査
OTC化
ロキソニンSのケース
代表例がロキソニンS(第一三共ヘルスケア)です。有効成分のロキソプロフェンナトリウムは、もともと医療用鎮痛薬として長年使われてきた成分でした。
- 医療用ロキソプロフェンとして長年使用され、安全性・有効性の実績を蓄積
- 2011年、OTC医薬品として承認——第1類医薬品(薬剤師からの情報提供が必要)として発売
- 副作用(むくみ等)への安全上の配慮から、現在も第1類医薬品のまま販売継続
- 薬剤師による情報提供・受診勧奨が義務付けられている
スイッチOTCが「ルールブック外」と表現したのは、通常の承認基準に基づく製品とは異なり、医療現場での使用実績という「別の根拠」で承認されるためです。
スイッチOTCは「医療用として知名度のある成分をOTCに」という訴求ができるため、ブランド構築がしやすい面があります。ロキソニンという名称が医療現場で広く知られていたことが、OTC市場での急速な普及につながりました。一方で、第1類医薬品として販売規制があるため、薬剤師のいる店舗・時間帯でしか購入できない制約が今も続いています。
まとめ
- 市販薬が似て見える背景には、厚労省の「承認基準(ルールブック)」がある
- 使える成分・配合量・効能・用法・年齢制限が定められており、各社はその範囲内で設計する
- 同じルールブックの中で最適化すると、設計が自然と近づく
- 差別化のポイントは製剤技術・効能の絞り込み・補助成分・ブランド戦略
- スイッチOTCは医療用医薬品からOTCへの別ルートで、ロキソニンSが代表例
- OTCは「ルールブックの中で工夫する市場」と理解すると、選び方の視点が変わる
ドラッグストアで市販薬を手に取るとき、「この商品はどこを工夫しているんだろう?」という視点を持つと、棚がまったく違って見えてきます。
「中身が似ている」ではなく、「同じルールの中でどう戦っているか」——それが市販薬の本当の面白さです。
この記事を書いた人:スイモン
薬学部卒・製薬会社勤務 / OTC医薬品マーケター
市販薬20カテゴリ以上の企画・ブランドマネジメントに従事。「つくる側・売る側」の視点から、市販薬の正しい選び方と業界の実態を発信しています。
プロフィール詳細 X(@suimon_otc)をフォロー