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ドラッグストアの謎:なぜ市販薬の中身は似ているのか?|承認基準という"ルールブック"を読む【OTCマーケターが解説】

 

スイモン
スイモン(@suimon_otc)
薬学部卒・製薬会社勤務 / OTC医薬品マーケター
市販薬20カテゴリ以上の企画・ブランドマネジメントに従事。「つくる側・売る側」の視点から、市販薬の正しい選び方と業界の実態を発信しています。

ドラッグストアの謎:なぜ市販薬の中身は似ているのか?|承認基準という"ルールブック"を読む【OTCマーケターが解説】

ドラッグストアに並ぶ頭痛薬——イブ、バファリン、ロキソニン、カロナールA。
「中身、似てない?」「名前が違うだけでは?」と感じたことがある人は多いと思います。

これは偶然ではなく、OTC医薬品の「承認基準」というルールブックが深く関係しています。
企画する側にいた視点から、その仕組みを解説します。

OTC医薬品に"ルールブック"がある

市販薬を作るとき、メーカーは自由に成分や量を決められるわけではありません。

厚生労働省は医薬品カテゴリごとに「製造販売承認基準」を公表しており、これがいわば市販薬を作るためのルールブックです。

📌 承認基準とは
  • 厚生労働省が定める、OTC医薬品の製造・販売に関するガイドライン
  • カテゴリ(解熱鎮痛薬・胃腸薬・鼻炎薬など)ごとに存在する
  • このルールブックの範囲内で申請すれば、個別審査なしに承認される
  • 範囲外の成分・用量を使う場合は、別途個別審査が必要になる

つまり各メーカーは、「ルールブックの範囲内」で商品を設計しているということです。

このルールブックの存在が、「ドラッグストアに似た商品が並ぶ理由」の根本にあります。

 

承認基準に定められている5つのこと

解熱鎮痛薬を例にとると、承認基準には大きく5つのことが定められています。

項目 内容 意味
①使用できる有効成分 アセトアミノフェン、イブプロフェン、アスピリン、エテンザミドなど(I欄〜IV欄で区分) リストにない成分は原則使えない
②成分ごとの配合量 各成分の1回最大分量・1日最大分量が規定されている(例:イブプロフェン 1回200mg・1日450mg) 勝手に増量できない
③効能又は効果 頭痛・歯痛・生理痛・発熱時の解熱など、記載できる効能が規定されている 規定外の効能表現は不可
④用法及び用量 服用タイミング・1回量・1日回数の枠組みが定められている 自由に服用方法を設計できない
⑤年齢制限 成分によって15歳未満禁忌など年齢制限が定められている 成分によって対象年齢が変わる

実際の承認基準を見てみよう

下記は厚生労働省が公表している「解熱鎮痛薬製造販売承認基準」の別表1です。使用できる有効成分と、1回・1日の最大分量が明記されています。

別表1(抜粋) 有効成分の種類並びに1回及び1日最大分量
区分 有効成分 1回最大分量
(mg)
1日最大分量
(mg)
I欄
1項
アセトアミノフェン 300 900(1500)*
ラクチルフェネチジン 200 600
I欄
2項
アスピリン 750 1500
アスピリンアルミニウム 1000 2000
エテンザミド 500 1500
サザピリン 500 1500
サリチルアミド 1000 3000
サリチル酸ナトリウム 1000 3000
I欄
3項
イブプロフェン 200 450
I欄
4項
イソプロピルアンチピリン 150 450
II欄
補助成分
アリルイソプロピルアセチル尿素 60 180
ブロモバレリル尿素 200 600
III欄 トラネキサム酸 250(93.4)** 750(280)**
⭐ = 現在の市販頭痛薬で特に多く使われる成分 / 出典:解熱鎮痛薬製造販売承認基準(厚生労働省) 別表1(抜粋)

この表から読み取れる重要なポイントが2つあります。

📋 I欄:主成分(鎮痛・解熱)
  • アセトアミノフェン:1回300mg
  • イブプロフェン:1回200mg
  • アスピリン:1回750mg
  • エテンザミド:1回500mg
  • イソプロピルアンチピリン:1回150mg
📋 II欄:補助成分(鎮静補助)
  • アリルイソプロピルアセチル尿素:1回60mg
  • ブロモバレリル尿素:1回200mg

※I欄の主成分に組み合わせて配合できる補助成分。「頭痛に伴う緊張を和らげる」などの目的で配合される。

メーカーはI欄の主成分を選び、II欄の補助成分と組み合わせるという設計をしています。選べる成分・配合量の上限が決まっているため、各社の製品が近くなるのは当然の帰結です。

🏭 企画する側から見ると

承認基準は「最低限のルール」であり、各社はこの枠の中でしか動けません。新製品の企画会議でも「承認基準上は問題ないか」の確認は必ず行います。逆に言えば、承認基準内であれば審査が比較的スムーズに進むため、各社が似た設計に向かいやすいという構造があります。

 

なぜ「似た商品」が増えるのか

頭痛薬で使える有効成分は限られています。その中で長年の使用実績があり、安全性・有効性が確立されているのは以下の成分が中心です。

💊 よく使われる有効成分(NSAIDs系)
  • イブプロフェン
  • アスピリン(アセチルサリチル酸)
  • エテンザミド
  • ロキソプロフェンナトリウム(スイッチOTC)
💊 よく使われる有効成分(その他)
  • アセトアミノフェン(作用機序が異なる)
  • 無水カフェイン(鎮痛補助)
  • アリルイソプロピルアセチル尿素(鎮静補助)
  • 制酸剤成分(胃粘膜保護)

「同じルールブックの中で、実績ある成分を使う」——この結果として、各社の製品が成分・効能・用法で似てくるのは必然です。

これはメーカー各社が手を抜いているわけでも、真似をしているわけでもありません。「同じルールの中で最適解を追うと、近い設計になる」という構造的な話です。

⚠️ 注意:承認基準にない成分を使う場合は「個別承認」の申請が必要になります。審査コストと時間がかかるため、既存の承認基準に収まる設計を選ぶ合理的理由がメーカー側にはあります。
 

具体例①:イブAとイブクイックの違い

同じエスエス製薬の製品でも、イブブランド内に複数の製品があります。これはルールブックの範囲内でどう差別化しているかの典型例です。

📦 イブA
  • イブプロフェンを中心としたシンプルな設計
  • 補助成分との組み合わせで鎮痛効果をサポート
  • 「スタンダードな頭痛薬」としてのポジション
  • コストパフォーマンス重視の選択肢
📦 イブクイック
  • イブプロフェンに速溶化技術を組み合わせた設計
  • 「早く効く」を訴求するための製剤工夫
  • 同じ有効成分でも「速さ」で差別化
  • 価格は高めでも速さを求める層に訴求

注目すべきは、どちらも「承認基準の範囲内」で設計されているという点です。有効成分の種類や1日上限量は同じルールに従いながら、製剤技術と補助設計で差別化しています。

🏭 企画する側から見ると

同じブランド内で複数製品を展開するのは、「価格帯別の棚取り」という戦略でもあります。スタンダード製品でボリュームを確保しつつ、プレミアム製品で利益率を上げる。これはドラッグストアのPB(プライベートブランド)戦略とも深く関わっています。

 

具体例②:プレミアム系製品の「近さ」

さらに興味深いのが、異なるメーカーのプレミアム系製品を比較したときです。

バファリンプレミアムDX(ライオン)とイブクイック頭痛薬プレミアム(エスエス製薬)——メーカーも異なるこの2製品ですが、設計思想が非常に近いことが分かります。

📊 プレミアム系製品に共通する設計思想
  • 複数の有効成分を組み合わせる(異なる作用機序で相乗効果を狙う)
  • 鎮静補助成分を加える(アリルイソプロピルアセチル尿素など)
  • 無水カフェインを配合(血管収縮・鎮痛補助として)
  • 胃への配慮(制酸剤成分の追加など)

「真似している」ではなく、「同じルールブックの中で効果感と飲みやすさを最大化しようとすると、設計が近づく」——これが正確な表現です。

承認基準という共通のルールブックがある以上、「最高の頭痛薬」を追求したときに行き着く答えは、ある程度似てきます。これはF1マシンが各チーム異なるアプローチを取りながらも、形状が似てくるのと同じ理屈です。

 

各社はどこで差をつけているか

ルールブックの中でどう差別化するか——メーカーが実際に使っている手法を4つに整理します。

差別化の軸 具体的な手法
製剤設計 崩壊・溶出の速さ、剤形(錠剤・液体・ゼリー)の工夫 「速く効く」訴求
効能の絞り込み 承認基準内の効能を意図的に絞り、ブランドイメージを作る 「生理痛専用」「頭痛専用」
補助成分の組み合わせ 同じ主成分でも補助成分の種類・量で体感を変える 胃に優しい設計、眠くなりにくい設計
ブランド戦略 ネーミング・パッケージで「速い」「優しい」などのイメージを付与 「プレミアム」「クイック」「プラス」
💡 ポイント

「完全自由に作れる」わけではないからこそ、各社はルールブックの枠の中で製剤技術・ブランド・ターゲット戦略で勝負しています。「中身が似ている」のに「選ぶ理由が生まれる」のは、この差別化努力の結果です。

 

ルールブック外から来る薬:スイッチOTC

ここまでは「承認基準というルールブックの中で作られる薬」の話でした。しかし市販薬には、このルートとは少し違う流れで登場する薬があります。

それが「スイッチOTC」です。

🔄 スイッチOTCとは

もともと医師の処方が必要だった医療用医薬品の成分を、一定の審査を経て市販薬(OTC)として販売できるようにしたもの。通常の承認基準ルートとは別の審査プロセスを経て登場します。

医療用医薬品
処方箋が必要
安全性・有効性の
実績蓄積
スイッチOTC申請
厚労省審査
市販薬として販売
OTC化

ロキソニンSのケース

代表例がロキソニンS(第一三共ヘルスケア)です。有効成分のロキソプロフェンナトリウムは、もともと医療用鎮痛薬として長年使われてきた成分でした。

📋 ロキソニンSのスイッチ経緯
  • 医療用ロキソプロフェンとして長年使用され、安全性・有効性の実績を蓄積
  • 2011年、OTC医薬品として承認——第1類医薬品(薬剤師からの情報提供が必要)として発売
  • 副作用(むくみ等)への安全上の配慮から、現在も第1類医薬品のまま販売継続
  • 薬剤師による情報提供・受診勧奨が義務付けられている

スイッチOTCが「ルールブック外」と表現したのは、通常の承認基準に基づく製品とは異なり、医療現場での使用実績という「別の根拠」で承認されるためです。

🏭 企画する側から見ると

スイッチOTCは「医療用として知名度のある成分をOTCに」という訴求ができるため、ブランド構築がしやすい面があります。ロキソニンという名称が医療現場で広く知られていたことが、OTC市場での急速な普及につながりました。一方で、第1類医薬品として販売規制があるため、薬剤師のいる店舗・時間帯でしか購入できない制約が今も続いています。

 

まとめ

📝 この記事のまとめ
  • 市販薬が似て見える背景には、厚労省の「承認基準(ルールブック)」がある
  • 使える成分・配合量・効能・用法・年齢制限が定められており、各社はその範囲内で設計する
  • 同じルールブックの中で最適化すると、設計が自然と近づく
  • 差別化のポイントは製剤技術・効能の絞り込み・補助成分・ブランド戦略
  • スイッチOTCは医療用医薬品からOTCへの別ルートで、ロキソニンSが代表例
  • OTCは「ルールブックの中で工夫する市場」と理解すると、選び方の視点が変わる

ドラッグストアで市販薬を手に取るとき、「この商品はどこを工夫しているんだろう?」という視点を持つと、棚がまったく違って見えてきます。

「中身が似ている」ではなく、「同じルールの中でどう戦っているか」——それが市販薬の本当の面白さです。

💊 承認基準の話、図解でも解説しています
「なぜ似た市販薬が増えるのか」を1枚の図解にまとめました。
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