スイモン 市販薬インサイトラボ

作る側・売る側から見るセルフメディケーション戦略

プレコールだけが「価格も容量も変わる」理由——第一三共ヘルスケア値上げ改定を読む【OTCマーケター考察】

 

プレコールだけが「価格も容量も変わる」理由
第一三共ヘルスケア2026年改定を読む
【OTCマーケター考察】

スイモン
スイモン|OTC医薬品マーケター
薬学部卒・製薬会社勤務|市販薬20カテゴリ以上の企画経験
「作る側・売る側」の視点から、市販薬の業界動向を発信しています
2026年5月7日、第一三共ヘルスケアが価格改定のプレスリリースを出した。対象は医薬品・医薬部外品 計20品目。大半の製品は価格改定(値上げ)のみだ。

ところが1品目だけ、価格改定に加えて「容量変更」も同時に実施する製品がある。プレコール持続性カプセルだ。

価格を上げながら、量まで減らす。他の製品は値上げだけで済ませているのに、なぜプレコールだけが二重の変更なのか——この「非対称性」を起点に考察したい。
 

1. 今回の改定全容——何が、いつから変わるか

まず今回のプレスリリースの内容を整理しておこう。

📎 出典
第一三共ヘルスケア株式会社「製品の価格改定および容量変更等に関するお知らせ」2026年5月7日
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/content/000142125.pdf
 
2026年6月1日〜
価格改定(19品目):最大約40%改定(出荷価格ベース)
ロキソニンS・EXシリーズ、アレルギール、第一三共胃腸薬プラス、カロヤンシリーズ、ミノンシリーズ、クロマイ軟膏シリーズなど+プレコール持続性せき止めカプセルも含む
 
2026年6月29日〜
価格・容量変更リニューアル:プレコール持続性カプセルのみ
(価格改定と容量削減の両方を同時実施)
 
2026年10月1日〜
価格改定(1品目):ピロエース石鹸(約46%改定)

今回の改定でポイントとなるのは、計20品目が改定対象であるのに、「容量まで変える」のはプレコール持続性カプセル1品目のみという点だ。しかもプレコールは価格改定19品目のリスト(No.1)にも入っており、6月1日の価格改定と6月29日のリニューアルの二段構えで対応している。

 

2. 容量変更の詳細——数字で見る実質値上げの幅

プレコール持続性カプセルの変更内容を表で整理する。

容量(変更前) 容量(変更後) 価格・変更前(税込) 価格・変更後(税込) 1カプセルあたり
12カプセル 10カプセル 1,100円 1,375円 91.7円 → 137.5円
(+50%)
24カプセル
現在販売休止中
20カプセル 1,815円 2,266円 75.6円 → 113.3円
(+50%)
36カプセル 30カプセル 2,310円 2,893円 64.2円 → 96.4円
(+50%)

※メーカー希望小売価格(税込)。出荷開始日:2026年6月29日。JANコードも変更。

表を見ると、容量削減(約17%減)と価格引き上げ(約25%増)が重なることで、1カプセルあたりのコストはどの規格でも約50%増加している。三規格すべてで「±50%」という一致は、偶然ではなく意図的な設計だ。

1カプセルあたりの実質値上げ幅
約 +50%
容量削減(17%)× 価格上昇(25%)が重なった結果
💡 「シュリンクフレーション」とは
価格は維持(または小幅値上げ)しながら、内容量を減らすことで実質値上げする手法。消費者が気づきにくいとされる。今回のプレコールは価格改定も同時実施しているため、二方向からのコスト増となっている。

さらに注目すべきは24カプセル(中間サイズ)がすでに販売休止中という事実だ。今回のリニューアルで24カプセルは「20カプセル」として復活する形になる。中間規格が一時姿を消していたことは、SKU整理の試みがすでに進んでいたことを示唆している。

 

3. なぜプレコールだけ?——3つの仮説

19品目が「値上げのみ」で対処できたのに、プレコールだけが「値上げ+容量変更」の二段構えを必要とした理由は何か。3つの仮説を検討したい。

1
規制対応説——「変えなくてよかった」はずが変えた
指定濫用防止医薬品の販売制限は、基本ルールが5日分以下だが、風邪薬(かぜ薬)は例外として7日分以下まで認められている。

プレコールは咳止め・風邪薬・鼻炎の複数ラインを持つブランドで、今回容量変更を受けた「プレコール持続性カプセル」はかぜ薬ラインに分類される。旧12カプセルは用法上6日分相当であり、風邪薬の例外ルール(7日分以下)の範囲内に収まっている。

つまり規制上は全く変える必要がなかった。それでも5日分(10カプセル)に変えてきた——ここがこの考察の出発点であり、規制ではなく他の理由が主因である可能性を強く示唆している。
2
SCM効率化——「12・24・36」から「10・20・30」への規格統一
旧SKUの12・24・36カプセルは「12の倍数」体系だった。新SKUは10・20・30カプセルの「10の倍数」体系に変わる。

製造現場では、PTPシート(press-through package)の打数統一が生産効率に直結する。1シート5カプセルや1シート10カプセルに統一することで、製造ライン・包材規格の共有が進む。「10の倍数」への移行はOTC業界では珍しくない生産効率化の手法だ。
3
市場縮小への適応——コロナ特需消滅後の需要減と24カプセル休止の文脈
コロナ禍(2020〜2022年)は咳止め薬の特需期だった。しかし5類移行後、市場は縮小に転じている。

24カプセル規格がすでに販売休止になっていた事実は、中間サイズの需要が先行して消えていたことを示す。需要の実態に合わせてSKUを3規格に絞り直しつつ、コスト増を容量変更で吸収する判断は合理的だ。
💊 作る側から見えること

3つの仮説は、実際には複合的に働いていると見るのが自然だ。規制対応の必要性があり、かつ生産効率化の機会があり、さらに需要縮小という外部環境もある——この三つが重なるタイミングで容量変更を実施したと考えると、「なぜ今か」が腑に落ちる。

逆に言えば、他の19品目はこれらの要因が重ならないため「価格改定のみ」で対処できた。プレコールだけが複数の変更要因を抱えていたということだ。

 

4. 背景にある規制——指定濫用防止医薬品と咳止めの制約

仮説①で触れた「指定濫用防止医薬品」の規制についてもう少し掘り下げたい。

指定濫用防止医薬品とは

過量服用・乱用のリスクがある成分を含む市販薬は、厚生労働省が「指定濫用防止医薬品」として指定し、販売に制限を設けている。プレコール持続性カプセルはコデイン類を含む指定第2類医薬品であり、この規制の対象となっている。

⚠️ 指定濫用防止医薬品の販売制限(令和8年5月1日以降の措置強化)

・咳止め薬(鎮咳去痰薬):5日分以下の小容量品のみ
風邪薬(かぜ薬)・解熱鎮痛薬・鼻炎内服薬:例外として7日分以下
主な対象:インターネット販売における若年者(過量服用・乱用リスク層)への大容量品販売の制限が主眼
・店頭販売では薬剤師・登録販売者の確認のもとで対応(一律禁止ではない)
📎 参考資料
日本OTC医薬品協会(JSMI):指定濫用防止医薬品に関する情報 https://www.jsmi.jp/
厚生労働省:医薬品の乱用防止対策 https://www.mhlw.go.jp/

「変えなくてよかった」のになぜ変えたか——これが考察の核心

プレコールはブランド内に咳止め・風邪薬・鼻炎の複数ラインを持つ。今回容量変更を受けた「プレコール持続性カプセル」はかぜ薬(風邪薬)に分類される。用法は1日2カプセルで、旧12カプセルは6日分相当にあたる。

指定濫用防止医薬品の規制は、基本ルールこそ「5日分以下」だが、かぜ薬には例外規定があり「7日分以下」まで認められている。6日分は7日分以内に収まるため、旧12カプセルは規制上まったく問題がない。

法律的に変える必要がなかった製品を、あえて5日分(10カプセル)に変えてきた——これが今回の変更の核心であり、「なぜ今?」という問いへの答えが規制以外の場所にあることを示している。20・30カプセル(10日分・15日分)が継続販売される事実も、規制対応が主因ではないことを裏付ける。むしろ仮説②のSCM効率化、または仮説③の需要縮小への対応として読む方が整合的だ。

💡 規制が直撃するのは「ネットで大容量を探す若い世代」
この規制強化が特に影響するのは、ドラッグストアの店頭よりネットで市販薬を購入する層——とりわけ若年者だ。SNSで「コスパの良い大容量品」を探し、ネットで購入するという行動パターンが制限される。一方、店頭では薬剤師・登録販売者との対話を通じて引き続き購入できる。「ネットで安く大量に」という選択肢が狭まっていくことは、セルフメディケーションのあり方にも影響する。
 

5. 第一三共ヘルスケアのサントリー移管という文脈

もうひとつ、今回の動きを理解するうえで外せない大きな文脈がある。それが第一三共ヘルスケアのサントリーホールディングスへの段階的移管だ。

 
2026年4月15日
第一三共がサントリーHDへの株式譲渡を発表。総額2,465億円
 
2026年6月(予定)
第1段階:株式30%をサントリーHDへ譲渡
 
2027年6月(予定)
第2段階:追加40%を譲渡(累計70%)
 
2029年6月(予定)
第3段階:残り30%を譲渡 → サントリーの完全子会社化

今回の価格改定プレスリリース(5月7日)は、売却発表から3週間も経たないタイミングで出されている。移管交渉の過程で「現行ポートフォリオの収益性改善」が課題として浮上していた可能性は高い。

💊 移管前の「事業整理」という視点

企業が買収・移管される前後には、必ずといっていいほど「ポートフォリオ整理」と「収益構造の改善」が行われる。

採算性の低いSKUを整理し、価格改定で利益率を回復し、製品ラインを効率化してから移管する——これは買い手・売り手双方にとって合理的な行動だ。3年かけた段階的移管のスタートライン(2026年6月)に向け、今が最後の「整理の機会」でもある。

プレコールが今回最も大きな変更を受けた背景には、咳止め市場での規制対応の必要性に加えて、こうした経営上の判断も重なっていると考えると自然だ。

 

6. 消費者への影響——何が変わり、どう選ぶか

今回の変更が消費者に与える直接的な影響をまとめる。

💸 コスト面
1カプセルあたりのコストが約50%増加。どの規格を選んでも以前の「大容量コスパ重視」という選択肢は成立しない。同じ効果を得るためのコストが上がる。
🛒 購入制限(主にネット販売)
規制強化の主眼はネット販売での若年者への大容量品販売制限。店頭では薬剤師・登録販売者の確認を経て購入できる。ネットで大容量品を探す習慣がある人ほど影響を受ける。
💊 使用の考え方
コデイン類を含む咳止めは長期使用に注意。症状が1週間以上続く場合は、市販薬で対応できる範囲を超えている可能性がある。早めの受診を。
🔄 代替の検討
成分・価格帯の合った別の咳止め薬を検討する余地がある。コデイン非含有の製品や、症状に応じて去痰成分中心の製品を選ぶ判断も選択肢のひとつ。

「値上がりした」というだけで見れば不満に感じるかもしれない。ただ、「必要なときに、必要な量だけ選ぶ」というセルフメディケーションの本質から見れば、大容量をまとめ買いして手元に置き続ける使い方は本来の趣旨とも合っていなかった。

コスト上昇をきっかけに、自分の症状に本当に合った成分・容量・価格帯の製品を改めて選び直す——今回の改定はそのきっかけになりうる。

 

7. まとめ

📌 この記事のポイント
  • 2026年5月7日、第一三共ヘルスケアが20品目の価格改定を発表。うちプレコール持続性カプセルのみが価格改定+容量変更のダブル対応
  • 容量変更の内容:12→10、24→20、36→30カプセル(約17%削減)。価格は約25%UP。1カプセルあたりコストは約50%増加
  • なぜプレコールだけか:①規制上は変える必要がなかった(風邪薬は7日分例外ルール。旧12カプセル=6日分で合法)のに変えた → ②「10の倍数」体系へのSCM効率化が主因、③需要縮小・SKU整理が重なった
  • 24カプセルはすでに販売休止中だった事実は、この整理が今回突発的ではなく計画的に進んでいたことを示す
  • 背景には第一三共ヘルスケアのサントリーHDへの段階的移管(2,465億円・2026〜2029年)という経営文脈も重なる
  • 消費者視点:1カプセル50%増は実質的に大きなコスト増。まとめ買いも規制で制限される。成分・容量・価格帯を改めて見直す機会

今回のような価格改定・容量変更は、単純な「値上げ」として受け取るより、規制・生産・市場・経営——複数の文脈が重なった結果として読む方が実態に近い。

市販薬を選ぶとき、「以前と同じ製品」が「以前と同じ価値」を提供しているとは限らない。成分は同じでも、容量・価格・入手性は変わる。セルフメディケーションで大切なのは、変化に気づき、中身とコストの両方を自分に合わせて選び直す柔軟さだ。今回の改定はその実践の場でもある。

💊 OTC市場の考察を発信中
「作る側・売る側」の視点で、市販薬の業界動向や選び方のヒントをXで発信しています。ブログ更新情報もXでお知らせします。
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この記事を書いた人:スイモン

薬学部卒・製薬会社勤務 / OTC医薬品マーケター

市販薬20カテゴリ以上の企画・ブランドマネジメントに従事。「つくる側・売る側」の視点から、市販薬の正しい選び方と業界の実態を発信しています。

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